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短編小説

【短編小説】「また来るね」と書いた日記帳

バツイチにゃん吉、短編小説に初挑戦します。

エブリスタ小説大賞、妄想コンテストお題【さよならの理由】に応募している作品です。

自分の実体験にもとづいて書いています。

それでは、どうぞ。

クリスマスイブ

ガチャン。

軽自動車の助手席に乗り込み、ぼくは携帯を眺めていた。

運転席のけんちゃんが車を出しながらたずねてきた。

「ふうたさん、このまま一旦帰ってそのあと飲みに行きますか?」

ぼくは「そうやね」とだけこたえた。

この日、12月24日クリスマスイブの日にぼくとけんちゃんは朝からとあるイベントに参加していてその帰りだった。

イベントの間6時間ぐらいホールの中にずっといたので外の空気を吸いたい気分、車は窓を開けると肌寒かったけど、つい開けて深呼吸をした。

けんちゃんはぼくの5歳年下、遊びの中で知り合った友達でうちの近所に引っ越してくるぐらい仲が良かった。

けんちゃんが車を走らせ、ぼくが何気ない雑談をしていると急にけんちゃんがつぶやいた。

「ふうたさん、すみません。 高速、逆に乗っちゃいました」

ぼくの地元エリアだったので道はよくわかる。

「けんちゃん、大丈夫。次の出口でおりよう、すぐに引き返せるわぁ」

こんな会話をしていた。

けんちゃんが高速をおりてぼくは気付いた。

そういえば1ヵ月ぶりやなぁ、ふと思い出した。

そう、ぼくは1ヵ月前の11月11日入籍したばかりだった。

そして、結婚の報告を入院しているばあちゃんに1ヵ月前に報告に来ていたのだった。

夜の飲み会は19時からでまだ15時、時間あるなぁと思いけんちゃんに聞いてみた。

「けんちゃん、高速の乗り口間違ったのも何かの縁かもしれんからちょっとばあちゃんのお見舞いに病院寄っていい?」

けんちゃんは快く快諾してくれてぼくを病院前まで送ってくれた。

「ふうたさん、ぼく30分ぐらいこのあたりを周ってるんでお見舞い終わったら電話ください」けんちゃんが言ってくれた。

けんちゃんに感謝を伝え、ぼくは病院に入っていった。

ばあちゃんは、末期の肝臓ガンとB型肝炎を患っていてもう手のほどこしようがなく終末をむかえるのを待っていた。

と、言っても3年前にばあちゃんが自宅で倒れてからずっと入院をしていて、ぼくのことを覚えているかもわからないぐらい痴呆も進んでいた。

いつもお見舞いにいくと、なにかずっとつぶやいていてたまに笑顔を見せてくれるそんなばあちゃんだったけど、ぼくはそれだけでも十分に感じた。

ぼくが3歳のころ両親が離婚し、ばあちゃんに育ててもらってきた生粋のばあちゃん子だったからだ。

この日もいつも通り、お見舞いをして返事が返ってこないばあちゃんに話しかけていた。

そして、ばあちゃんが入院した日からお見舞いに来た人がその日あったことを書いて帰る日記帳に「ふうた参上、また来るね」とだけ書いた。

いつも、一言だけ書いて帰る。

この日も一言だけ。

ふとばあちゃんを見ると辛そうな顔で一粒の涙を流していた。

身体が痛いのかもしれないと思い、看護婦さんに告げその場をあとにした。

けんちゃんが病院前で待ってくれており、ぼくらは急いで自宅の方に向かって車を飛ばした。

街中を走ると、イルミネーションがちりばめられていて、クリスマスムード、お祭りムード全開だ。

ぼくらもテンションが上がり車の中で歌を歌いながら車を走らせた。

19時、時間通りに飲み会という名の忘年会が始まった。

けんちゃんや気の知れた仲間、そして1ヵ月前に嫁になったりぃ、ぼくらはガンガン飲んで盛り上がっていた。

1軒目だけで当然終わるはずもなく2軒目に突入、そこでもどんちゃん騒ぎだ。

軒目はカラオケにいき朝5時までみんなで歌いまくった。

結局、朝6時に嫁と一緒に自宅に帰りそのままベッドに落ちた。

 

クリスマス

 

この日はよく寝た、起きたのが夕方の17時ぐらいだっただろうか。

携帯をみると、珍しく父親から3回、妹から2回着信があった。

メールも1通、父親から届いていた。

「おばあちゃんが今朝亡くなりました。看護師さんが見に行ったときにはすでに亡くなっていたようです。今晩帰ってこれますか。〇〇〇〇でお通夜です」

読んだ瞬間、心臓の鼓動がどんどん早くなっていくのを感じた。

涙どころか、声が出ない。

嫁も事情を察し、そして弱っていくぼくをみて、「とりあえず、お通夜の場所に行こう」そう言ってくれた。

電車で向かう中、なにも言葉が出てこないんだ。

本当になにも。

信じたくない、信じられない、でも今から現実を見に行く。

この何ともいえない、表現しがたい感情が電車の景色と同じように流れていった。

お通夜の場所にいくと、父親と妹夫妻がきていた。

そして、ばあちゃんと再会した、1日ぶりに。

昨日は生きていた、なのに今は木の箱に入って白装束を着て死んでいる。

よく眠っているようにって表現を聞くけど、目の前の現実、ばあちゃんは死んでいる。

家族の中で唯一、最後に生きているばあちゃんに会えたのがぼくだった。

昨日、たまたまけんちゃんが道を間違えなければ昨日会うことはできなかったんだ。

日記帳に「また来るね」と書いた昨日、ぼくは通夜の夜、ばあちゃんの横にいたんだ。

「まさか翌日に来ることになるなんてね。」そう言って、子供のころからのことをいろいろ思いだしていた。 涙を止めることが出来ないままで。

明日、しっかりさよならが出来るように。

なぜ、今日だったのか理由を考えていた。

妹が一言、「じいちゃんサンタが迎えにきたんやねぇ。」

そっか、クリスマスという最高にオシャレな日にじいちゃんが迎えにきた。

ただそれだけの理由か。

外に出ると息が白い、笑い声が聞こえてきそうなクリスマスに起きた、それは事件だった。